ミリ波ばく露評価の国際標準化及び国内制度化に対する貢献
2025.6.10
2025年2月28日の総務省令改正により、ミリ波帯を含む6GHz~300GHzにおける新たな電波防護指針として吸収電力密度のばく露許容値が無線設備規則に導入されるとともに、6GHz~10GHz帯における吸収電力密度の評価方法も告示として定められた。
我が国はこれまで、世界に先駆けて5Gにおけるミリ波帯(28GHz帯)の本格利用に対応し、ばく露許容値およびその評価手法を制度化してきた。一方、近年では6GHz~10GHz帯においてWi-Fiの利用が開始され、5Gによる利用も検討されており、人体近傍における無線端末の使用を想定した評価指針の整備が新たな課題となっていた。この周波数帯では、自由空間波長が数センチメートル程度と短く、人体とアンテナの距離が数ミリメートル程度となる極近傍界でのばく露が問題となる。このような条件下では、従来28GHz帯で用いられていた人体に入射する電力密度(以下、入射電力密度)では、体表面での温度上昇の適切な評価ができないことが指摘されており、新たな評価指標の確立が求められていた(下図参照)。

ミリ波帯が人体に入射した場合の電波吸収の様子:人体表面で反射された残りが人体内に透過する。ミリ波帯ではほとんどが体表面で吸収される。もし、アンテナが人体表面の極近傍にある場合は反射波を適切に予測することが困難であり、人体に吸収される電力密度を直接評価する必要がある。
この課題に対し、当研究所電磁波標準研究センター電磁環境研究室の佐々木主任研究員(現:経営企画部企画戦略室)らは、人体表面に吸収される電力密度と温度上昇との関係を明らかにし、その成果は2020年に発行された国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)による電波ばく露防護ガイドラインにおいて、指針値設定の科学的根拠として引用されている。また、佐々木主任研究員は総務省情報通信審議会の作業班構成員として、当該指針値の国内導入に向けた議論を主導した。6GHz~10GHzにおける吸収電力密度の評価方法に関しては、同室の関係者である大西研究マネージャー、長岡研究マネージャー、佐々木主任研究員らが、国際電気標準会議(IEC)における公開仕様書(PAS)の策定プロセスにおいて、我が国の技術的意見の取りまとめや国際議論に参画した。特に、大西研究マネージャーが主任を務めた総務省情報通信審議会の作業班では、構成員である佐々木主任研究員がIECでの検討状況を説明し、清水主任研究員がNICTにおける測定データを提供するなど、評価手法の妥当性に関する審議に対して多面的な技術的貢献を行った。
電磁環境研究室では引き続きミリ波帯からテラヘルツ帯の電波防護指針値の策定や評価方法の研究開発と標準化活動を進め、我が国のミリ波・テラヘルツ波帯の電波利用技術の研究開発や普及に貢献していく。