ミリ波帯の電波防護指針への適合性確認のための
国際標準規格発行に貢献

2022.5.10

5Gなどで利用が拡大しているミリ波帯電波を利用する携帯無線機器からの電波ばく露評価方法について、当研究所電磁波標準研究センター電磁環境研究室で開発した方法が2022年5月に(IECとIEEEのデュアルロゴ国際標準規格(IEC/IEEE 63195-1(測定方法),IEC/IEEE 63195-2(計算方法))として発行された。

5Gで利用されるミリ波帯電波(28 GHz等)は4Gまでに用いられていた数GHzのマイクロ波に比べて波長が短いため、電波吸収は体表付近に限定される。そのため、従来の携帯電話端末のばく露評価方法を用いることができず、従来方法とは抜本的に異なる評価方法が必要であった。電磁環境研究室では前中長期計画期間中から新たな評価手法の研究開発を行い(補足1)、その成果は情通審答申、総務省告示に反映されるとともに、2018年度に発行されたIEC技術報告(IEC TR 63170)にも反映された。

5G端末の国際的な流通を促進するためには、IEC技術報告ではなく、各国規制当局が正式に採用できる国際規格が必要である。そのため、IECとIEEEは合同WGを設置し、デュアルロゴ国際規格発行に向けて活発に活動を行ってきた。合同WGには16カ国の規制当局や産業界からエキスパートが参画しており、測定方法のWGにおいては、電磁環境研究室の大西輝夫主任研究員が共同コンビナーを務め、佐々木謙介主任研究員がエキスパートおよび国内審議WG主査としてNICT提案手法の妥当性評価データや国内関係者のコメントを寄書する等、主導的な役割を果たした。また、国際規格化に向けた検討の中で、ばく露許容値(入射電力密度)の定義に不明確な部分があることが明らかになり、5Gスマートフォンのような人体に密着して使用する携帯無線端末に対して適切なばく露許容値の定義がIEEEガイド文章(IEEE Std 2889)として2021年12月に発行されており、当該規格の策定においても佐々木主任研究員が主要なデータを寄書する等、主導的な役割を果たした(補足2)。

これらの国際標準規格によって、5Gの電波の安全性を国際的に整合性のとれた評価方法により判断できるようになった。現在、IEC/IEEEの合同WGではミリ波帯における人体の熱作用(体温上昇)のより直接的な指標となる吸収電力密度の評価方法の検討を始めており、電磁環境研究室では引き続き主導的な役割を果たしていきたい。

【補足1】5Gシステムからの電波ばく露の評価方法

携帯電話などの無線機器は人体に密着して使用されることから、電波ばく露の評価では無線機器の極めて近くの領域の電波(入射電力密度)を適切に評価する方法が必要である。NICTは、既存の端末等の基本的な特性(放射特性など)に使用する測定方法を利用し、計算により無線機器極近傍の電波ばく露量を推定する方法(図1)を開発・提案し、今回発行された国際標準規格に反映された。

5G端末ばく露の測定方の概要

(図1)5G端末ばく露の測定方の概要。測定が容易な端末から離れた領域(5~6 cm程度)の電波の空間分布から、端末近傍の電波の空間分布の評価方法を提案した。

【補足2】IEEE国際標準化文書(IEEE Std 2889-2021; 2021年12月発行)の策定

電波ばく露の人体防護ガイドラインへの適合性を適切に評価するためのばく露指標の定義を定めるために、各国の産学官からのメンバーが参画したIEEE作業班が設立された。電波ばく露指標の定義の検討にあたっては、アンテナが人体に近接して使用される際の人体ばく露特性の国際機関間比較(計6機関が参加)が行われた。この国際機関間比較に佐々木主任研究員と李鯤研究員(現、香川大助教)が参画し、様々なばく露条件(アンテナや人体とアンテナ間の離隔距離などの条件)におけるNICT提供データに基づく検討成果がIEEE国際標準化文書に反映された(図2)。

評価結果の例

(図2)評価結果の例:人体にアンテナが近接している際の人体へ入射する電波強度(左)および体表での温度上昇(右)。