日本・イタリア間VLBI光格子時計比較の国際共著論文が
Nature Physics誌に掲載
2020.10.6
NICTが開発した広帯域VLBI(超長基線干渉計)システムを使い、NICT本部のストロンチウム(Sr)光格子時計とイタリア国立計量研究所(INRiM)のイッテルビウム(Yb)光格子時計の周波数比を極めて高精度に測定した成果が、2020年10月6日(日本時間)に「Nature Physics」電子版に掲載された。
2026年前後に実施が想定される「秒の再定義」を確実にするためには、世界中の研究機関で同一原子による光時計の周波数一致を確認したり、異種原子による光時計の周波数比を精密に測定することが必須である。本成果においては、トリノにあるINRiMのYb光格子時計の周波数が光ファイバリンクによりメヂチーナのイタリア国立天体物理学研究所(INAF)に伝送され、INAFには日本から輸送したNICTの2.4mパラボラアンテナを設置して、NICT本部2号館屋上に設置した2.4mパラボラアンテナおよび鹿島34mパラボラアンテナの合計3基のアンテナでVLBI観測を行った。直径2.4mの小型パラボラアンテナ2基だけでは、大陸間VLBI観測は受信感度不足のため不可能であるが、34m径の大型アンテナが加わることで小型アンテナ間の精密な遅延を得ることができる。この処理方式(Node-Hub方式:左下図)をNICTが新たに開発したことで今回の成果が得られた。
これまでYbとSrの周波数比測定は、同一ラボ内や欧州域内での可搬光格子時計を利用して行われてきたが、本成果は大陸間での遠距離比較であり、世界初である。今回、VLBIを利用して2.8×10-16の不確かさで得られた周波数比は、右下図に示すように、これまで計測された値や同時に行ったGNSS利用の新手法(IPPP)の値と一致しており、欧州とアジアで共通の光周波数標準が確立されたことを示唆している。また、今回実現したVLBIによる大陸間周波数比較技術の成功は、他国が所有するGNSSや、莫大に費用がかかる衛星回線の確保には依存せずに日本標準時と協定世界時(UTC)の時刻差を測定できることも意味しており、将来、地政学的な影響を受けずに標準時を維持できることに繋がる。
本成果について、参加した4つの研究機関であるNICT、INRIM、INAF、BIPM(国際度量衡局)において英語共通版と各国語版で10月6日に報道発表を行い、10月12日現在、新聞2件、日本語webサイト37件、外国語webサイト46件での記事掲載が確認されている。
【リンク】
- 数億光年かなたの天体からの信号で、光格子時計の周波数比を高精度に計測[NICT報道発表 2020.10.6]